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"diagnose" は人間にも病気にも使える。言葉の使い方は変わっていくのだ。

先日、"The patient was diagnosed with [病名]" を使った表現を見かけた。

あれっ、diagnoseを使うときは人間ではなく、状態に対して使うのに。

これは間違いじゃないか?

確認のために、これまで私が学んできた本を振り返ってみる。

前置詞が "with" ではないが、「薬事・申請における英文メディカル・ライティング入門 III」 では、"The patient was diagnosed as [病名]"を例にあげ、誤用として書かれている。※この本はAMA Manualの10thをベースに執筆されている。

臨床英文の正しい書き方 改訂4版」では、"The patient was diagnosed as having [病名]" を誤用としている。

前置詞の違いはあれど、両方とも、『diagnoseされるのは「病名」あるいは「状態」であって「患者」がdiagnose されるのではない』との説明である。

ここで、AMA Manual 3兄弟の出番である。

記載がどのように変わってきたか見てみよう。

転記するのは憚られるので、内容をざっくりと書いてみる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

■AMA Manual 9th Edition ・・・1997年
patient が diagnose されるのではなく、condition が diagnoseされる。


■AMA Manual 10th Edition ・・・2007年
patient が diagnose されるのではなく、condition が diagnoseされる。

※9th Editionの記述に加えて、以下の記述が追加。(実際はちゃんとした文になっている)

[Incorrect] The patient was diagnosed as [病名] ...
[Correct] The patient's [病名] was diagnosed ....


■AMA Manual 11th Edition ・・・2020年
diagnoseは以前は patient に使うのは avoid されていたが、今では a patient "was diagnosed" という表現も acceptable である。

The patient was diagnosed as having [病名]
The patient was diagnosed with [病名]


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そう。今では patient に対しても diagnose が使えることが AMA Manual に明記されている。

直接書かれてはいないが、The patient was diagnosed as [病名] は今でもダメなんだろうな。

まあ、それについては違和感はない。

実は、この "diagnose" を確認したくてAMA Manual 3兄弟を揃えたのだが、同様のもの、または逆のものは他にもあるだろう。

変遷をたどると興味深い。




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コメント

No title

非常に参考になりました。私は今でもthe patient was diagnosed...という表現は使わないのですが、誤用表現が一般的な表現となってしまうのは少し悲しいです...。

Re: No title

コメントありがとうございます。そうですね。悲しいですけど言葉は変わっていきますね。取り残されないようにしなくては。。。

No title

似た例として、形容詞句である「based on…」と、副詞句である「on the basis of…」の使い分けがあると思います。動詞の修飾にも「based on…」を使っている論文がたくさんありますし、マイクロソフトワードは、「on the basis of…」と書くと、より簡潔な表現として、何を修飾しているかに関係なく「based on…」をすすめてきます。New England Journal of Medicineの論文はきちんと使い分けていますが、そのうち、「on the basis of…」という表現は消え去るのでしょうか?

Re: No title

これは、現時点では流行り廃りの問題ではなく、誤った使い方の問題だと思います。

AMA Manualでは、"7.6.2 Verbal Phrase Danglers"で懸垂分詞として"based on"を例文で使っています。

しかし、ここでは、"on the basis"の話は出てきません。

AMWA Essential Skillsのテキストにぴったりの説明がありました。

"Problems With Participles"というトピックの中で"based on"の誤った使い方について説明しています。


[誤] Based on the results of this study, we recommend increasing the dosage of the investigational drug.

上記の文には "based on"が修飾する語句が無いため、例えば、以下のように修正すべきであると。結局は懸垂分詞の話ですが。

[正] Based on the results of the study, our recommendation is that the dosage of the investigational drug be increased.

または

[正] Our recommendation, based on the results of the study, is that the dosage of the investigational drug be increased.

その他の改善方法として、分詞句(形容詞として機能)を以下のように前置詞句(副詞として機能)に変更する方法も紹介されています。

[正] On the basis of the results of this study, we recommend increasing the dosage of the investigational drug.

そして、最後に以下のように書いています。

~~~~~~~~~~~~~~
at this point the medical style guides don’t allow the use of based on as an adverb, so we should be sure to use the participle correctly—as an adjective.
~~~~~~~~~~~~~~

参考になりましたでしょうか。


No title

論文で「based on」を副詞句としても使う著者が、非英語圏の人ばかりなら、誤用も仕方がないと思うのですが、英語が母国語と思われる人もかなりいるようなので、「based on」を副詞句として使うことが、本来は誤りであるが今では普通の使い方と見なされるようになるのは時間の問題ではないかと思った次第です。
少なくとも、英文和訳の際には、「based on」を副詞句として使う著者がいることを頭に入れておかないと、原文の解釈が上手くできないことがあります。

Re: No title

確かに時間の問題かもしれません。

AMWAの"at this point"という言葉も、それを意識しているようにも思えます。

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プロフィール

火星の翻訳者 (A Translator on Mars)

Author:火星の翻訳者 (A Translator on Mars)
IT業界で約30年にわたり金融系のシステムエンジニアとして従事。その中で、システム企画・構築・保守、海外駐在や海外ベンダーとの共同プロジェクトも経験。プロマネや情報セキュリティ関連の書籍翻訳(共訳)の経験も有り。2021年3月に長年勤めた会社を早期退職して個人事業主として開業。

保有資格などは以下の通り。
(1) 英語分野
・英検1級
・全国通訳案内士
・TOEIC 950
・アメリア メディカルクラウン
・DHC日英メディカル 総合評価AA (96.5)
・AMWA Essential Skills Certificate
(2) IT分野
・PMP
 (Project Management Professional)
・PRINCE2ファンデーション
・公認情報システム監査人 (CISA)
(3) ビジネス分野
・日商簿記1級